2010年9月30日木曜日

アサヒコム「国際支援の現場から」

アサヒコム「国際支援の現場から」に私が寄稿しています。
http://www.asahi.com/international/shien/TKY201006180143.html

■■■朝日新聞 国際支援の現場から■■■

題名:「スポーツメーカーのサプライチェーンとCSR」

リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド、カカ、本田圭佑・・・世界のトップレベルのサッカー選手が南アフリカに集まって始まったワールドカップ。スペクタクルなプレー、芸術的なプレーの数々を目の当たりにして、酔いしれる毎日が始まった。歓喜と興奮の祭典の日々が来月まで続く。
このサッカーの祭典にはたくさんのグローバル企業が協賛している。その中でもひときわ目立つのはやはり大手スポーツメーカーだ。そのドリブルと得点感覚で世界最高の選手との評価もあるリオネル・メッシ(アルゼンチン代表、FW)はアディダス社(addidas)、そのルックスとスピード豊かなプレーで今やスーパースターであるクリスチアーノ・ロナウド(ポルトガル代表、FW)はナイキ社(nike)の企業の広告塔として、TVCMなどに露出している。ユニフォーム、パンツ、ソックス、ジャージ、スパイクを身にまとった姿を見ることも多いだろう。もちろん、大会期間中は商品を身にまとい選手は試合で奮闘する。

さて、こうしたスポーツメーカーの商品を購入する際、君はどこからこの商品がやってきたのかを考えてみたことがあるだろうか?こう問うのには理由がある。これまで、途上国にある有名スポーツメーカーの下請け工場では、様々な問題がおきてきたからだ。
商品がどこで作られ、私たちの手元に届くのか、その過程をサプライチェーンと言う。どこから商品がやってきたのか・・・を辿っていくと、それは途上国の工場に行きつく。そこでは色々な問題が起こっていた(今もどこかでは、起っているのかもしれない)。安い賃金・最低賃金以下で働かされたり、長時間・休憩なしの勤務など厳しい労働条件で働かされたり、衛生・安全面で問題のある職場であったり、厳しい労働条件に反発して労働組合を作ろうとすると解雇されたり、なかには児童労働などもあったりである。職を失うわけにはいかないので労働者は厳しい労働環境でも我慢して受け入れざるを得ない。失業すると暮らしていけない。なぜなら先進国のように社会保障が整っていないからだ。こうした厳しい労働環境で労働者が働かざるを得ない状態を「スウェットショップ」という。
消費者は安く商品を買いたい、スポーツメーカーも安く商品を仕入れたい、下請け工場はコストを抑えたいと行動する。そのしわ寄せは下請け工場の労働者にきてしまうというわけだ。

1990年代、ナイキの関連工場において、「労働者が虐待を受けている」実態が知られるようになり、NGOから「スウェットショップだ」という批判が高まった。
アディダスについても、1998年のワールドカップ・フランス大会での公式試合球「トリコロール」はパキスタンの工場で作られていたのだが、これが10歳未満の子どもたちの手で作らせていたことが発覚して問題になった。
ただし、この2社は、こうした批判に誠実に対応した。改善につとめたのだ。行動規範を策定し、下請け工場の労働監査を行うようになり、今ではそれなりの評価をNGOから受けているほどだ。
背景には近年、「企業の社会的責任」(CSR:Corporate Social Responsibility)という概念が世の中でも広まってきたことが影響している。企業は社会的に批判を受けないように様々な取り組みを始めている。企業としての責任を果たそうと強い問題意識から自分たちのビジネスを再考する企業もある。ブランドイメージを守りたいという側面もあるのだろう。

スポーツメーカーの中には下請け工場の労働条件を監査している企業もあるが、監査を行わなかったり、形だけ入れているという企業もある。ただし、こうした企業に対して安易に批判はできない。消費者が購買行動を変えない限り、安いものを作ろうと企業は動くのは当然だからだ。企業はある条件のもとで、最適な行動をしているにすぎない。大手メーカーにサプライチェーンのどこまで責任があるのか、いったいどこまでが責任の範囲かなどなど、こうした議論は非常に難しい。

こうした中、サプライチェーンの問題を知った上でスポーツメーカーの商品を購入している人は、まだまだこの日本でも多くはないだろう。告白すると、こうして偉そうなことを言っている私自身も以前はそうしたことを知らなかったし、考えて購入などしていなかった。「ベッカムかっこいい」と思って思わず購入していたのだ。自分の消費行為が下請け工場に間接的に影響しているなんて考えもしなかったわけ。しかし、下請け工場の労働者の人権抑圧の加害の一端を間接的ではあるが担ってしまっていたことも事実。

そう考えると、消費者としてのほんの少しの関心とほんの少しの意識が企業を変える鍵ではないかと考える。「消費者として○○せねばならん」などと田中マルクス闘莉王(日本代表、DF)のように熱く主張したり、行動しなくてもいい。遠藤保仁(日本代表、MF)のようにマイペース&クールに、自分が購入しようとする商品の過去に思いをはせればいい。購買する前に、「なぜこの値段なんだろう?」「どのように作られてくるのだろう?」とワールドカップをきっかけに考えてもらいたいと願っている。

文責:CSRチーム・コーディネーター、サルバトーレ西村
*アムネスティ日本・CSRチームは、企業のCSR(社会的責任)についての活動を行っています。